| むかしむかし、あるところに それはそれはうつくしいくにがありました はなはさきみだれ、とりたちはうたい、きぎはかぜにゆられささやくよう かわはどこまでもきよらかで、そらはたかくあおく、ははなるだいちはいつでもあたたかでした ひとびとはそのくにを、そんけいとあこがれをこめて、「らくえん」とよんでいました |
城門を超えれば、すぐに平原と山を見渡せる丘がある。 その向こうには戦争中の敵国、「アーセナル」がある。 スネークは、その丘に立って北を見た。アーセナルを見透かすように目を細める。 胸のポケットから煙草を取り出し、口にくわえ、使い古しのライターを探した。 おとぎ話には誇張が多い、とスネークは思う。 口先で弄んでいたタバコに、ようやく見つけたライターで火をつけ吸い込むと、胸に充足感が満ちた。 そんな国、ありはしない。 この国が本当に「楽園」と呼ばれていたとしても、それは気の遠くなるほど昔の話だ。 この「シャドーモセス」は、国が生まれたときから戦火の真っ只中だった。 スネークが生まれたときも、物心ついたときも、兵士となったときも。 戦争は常にスネークの側にあった。 確かにこの国はいまだ、平和と言われる程に幸せだ。 貧民街と呼ばれるところはあるものの、そこに住まう人々の活気と人の良さは荒んではいない。 国全体がひとつの家族と真顔で言ってのける男が統治するからこそ、国民は安心し信頼し、幸せに暮らして行けるのだ。 その点において、スネークは自国の王に誇りを持っていた。 それに、今現在アーセナルを治める賢王ソリダスが聡明であるから、戦火がシャドーモセスにまで飛び火せず済んでいるというのもある。 腹の探り合いはあるものの、表向きには休戦協定を結んでいるし、国境沿いの小競り合いを除けば、国は平和そのものだ。 だが平原と山をひとつ越えた先にある国境は、木々の焼け果てた荒野が広がる戦場である。 スネークは協定が出来る前、その最前線で何度も敵兵を殺し何度もそれを退かせた。 この時代が、人殺しを肯定する。 こんな時代でなければ、もしくはこの戦争が終われば、怯えずに普通の暮らしが出来るようになるのだろうか。 何度も繰り返した幻想。何度も突きつけられた現実。 だが苦しいのは自分だけではない。 それを理解しているからこそ、スネークは戦うことをやめなかった。 「また北を見てるのか、スネーク」 聞き覚えのある声に振り返る。 腰まで伸びた雑草を掻き分けながら丘のふもとに歩いて来たのは、自分と同じ顔をした男だった。 「リキッド、会議はどうした」 「レイブンがなんとかする」 「また胃に穴が開くな」 リキッドに同じ煙草を差し出しながら笑う。 後から怒鳴られても知らんぞ、と言うと、リキッドはそれを受け取り、知るかと笑った。 こうしてたびたび抜け出してくる国の代表に、呆れ果てたと愚痴をこぼす補佐役の顔が目に浮かぶ。 今度上手い酒でも差し入れてやろうと思っていると、リキッドに無理やり手の中のライターをむしり取られた。 「オヤジのライター、まだ使ってたのか」 「オイルを入れ替えれば使えるのに、捨てられるか」 それもそうだな、と言って火をつけ煙を吐き出す。 ゆるゆると立ち上った紫煙は、すぐに風にさらわれて見えなくなった。 「何か言いたくて来たんじゃないのか」 しばらくの沈黙ののち、スネークが聞いた。 こぼれた灰を見送って、地面からリキッドの横顔に視線を移す。 跳ね上がった形のいい眉が、いつものように顰められる。 そうしてなきゃ、怖い顔だと子供に泣かれないのに。 「さすが兄弟、わかるか」 わからいでか、と思う。 なにせ自分達は双子だ。 かつて禁忌とされ、今なお迫害を受ける、何か不思議な力で結ばれあった双子。 スネークの直感は、リキッドの様子からなにかを捕らえていた。 「ジョニーとメリルから、通信があった」 煙草を落とし、軍靴でもみ消しながらリキッドがつぶやいた。 雲の動きが早い。嵐でも来そうだった。 「アーセナルの太陽が、沈んだ」 一瞬の逡巡ののち、スネークの銜えていた煙草が落ちた。 燃え尽きて、フィルターだけになった煙草をリキッドだけが目で追った。 「賢王ソリダスが、死んだ…?」 嵐が、来る。 |