むかしむかし あるところに


たいようとよばれる おうさまがいました


せんそうをとめたおうさまは、そのいだいさからけんおうともよばれていました


しかし、そのちからをうらやんだ12にんのしんかにうらぎられ、いのちをおとしてしまいました


かわいそうなおうさま


あとをついだのが、こんなできそこないだなんて!




キングダム
#02 [ 開幕の鐘 ]




 水上に建設された都市、アーセナル。

線と線で結ばれた六角形の幾何学的な姿は、見るものを圧倒するほどに美しい。

夕日に照らされたその都市は、まさに絶景だった。

黄昏時になると、街に少しづつ灯りが点る。

やがて高くそびえる煙突から絶え間なく吹き出ていた煙が収まり、美しいネオンに彩られるのだ。

 アーセナルの中心部である城には囲いが設けられ、また、東西南北の何処からも侵入できぬよう、堀を隔て構えられていた。

唯一許される通路は、東に作られた跳ね橋だけである。

城と言うより刑務所だな、とジャックは思う。

何かの本で見た、水上に建てられた孤島の刑務所。ここはそこに似ている。

母船という名のアーセナル中心でしか、風景というものを見たことがないのは、やはり悲しいものなのだろうか、とジャックは思った。

 窓辺に座り、じっと外を見つめる。

外に出たい、とは何時からの願いだったろうか、もう思い出せない。

檻の中で生まれ、檻の中で育ち、やがて死ぬ。

それが王の定めだと、それがアーセナルを背負う国王の使命だと、彼らは言った。

それがそうなら仕方のないことなのかもしれない。

 ジャックは裸足になったまま、開いた窓枠に足を掛けた。

こうして外に飛んだら、死ぬだろうか。それとも空を飛べるだろうか。飛べたら良いのに、と思う。それはきっと、とても素敵なことだ。

ジャックにとって、ここはただの牢獄に違いないのだから。

妄想に駆られぼんやりとネオンを見ていると、とてつもなく強い力で腕を引かれた。

足を滑らせ、空中に放り出される。落ちるかと思ったが、柔らかく抱き止められた。



「申し訳ありません。呼んだのですが、気付かれなかったようですので」



 振り仰げば、見馴れた臣下がそこにいた。ジャックを地面に下ろし、椅子を取ってそこへ座らせる。

撫然としてされるがままになっていると、彼はクスリと笑って跪いた。

足元に散らばったブーツを引き寄せると、慣れた手付きで靴紐をほどきだす。



「何を考えておられたのですか、ジャック様」



 手は休めずにそう聞くと、うつ向いたジャックの口元からか細い声で「飛べるかどうか、試してた」と聞こえた。



「危ないことです」



 靴紐をほどき終えると、ジャックの細い脚を取ってブーツを履かせた。紐を潜らせ、手早く結んでいく。

外に出たことがないジャックの靴裏は、新品同様に綺麗だった。

そんな些細なことすら、ジャックの気分を滅入らせる。



「ヴァンプ」
「はい」



 もう片方のブーツを履かせ終えると、ヴァンプはジャックの顔を見た。

色調の反転した目が、少し上にあるジャックを見つめる。



「俺は外に出たい」
「いけません。貴方が世俗にまみれては、正しい判断が出来なくなります」



 まるでマニュアルでもあるのではないかと疑ってしまうほどに、いつも繰り返される言葉。

ジャックは、自分が優しく飼い殺されて行くような気がしてならなかった。



「さあ、賢者逹がお待ちですよ。ジャック様が出席しなければ、会議が始まりません」
「俺など居なくとも、話は進むだろ。父上が全て決めてるんだ」



 子供が不貞腐れたように、脚を投げ出す。

だがヴァンプは、それを優しくたしなめるつもりでジャックの脚を自分の膝に乗せてやった。



「いずれ貴方はこの国を背負うことになるのですよ。それに、ソリダス様は現在国境の視察に赴かれています。ジャック様が必要なのです」



 俺は城から一歩も出られないのにオヤジは視察か、と胸中で不平を漏らしつつも、必要と言われて嫌な気はしない。

むしろ嬉しくて堪らないのが、逆にジャック自身を嫌悪させた。

自分はなんて現金なんだ!と胸クソ悪くなる。



「俺」



 ともすれば、ヴァンプに不満をぶつけてしまいそうになるのを堪えて、ジャックは慎重に口を開いた。



「必要ないだろ。必要なのは、俺の立場じゃないのか」



 太陽は沈み、外は既に夜の帳が降りていた。

星よりも煌めくネオンが、煩いくらいに主張し合っている。

窓から入る光が眩しかったのか、ヴァンプは眼を細めた。

ジャックには、それが自分を嘲笑っているように見えた。

 違う、と口の中に否定の言葉を転がす。

ヴァンプは賢者逹のものではない。自分のものなのだ。

自分に忠誠を誓った彼が、裏切ることなど。

だがジャックは不安に駆られざるを得ない。

城の外への憧れと閉鎖された世界が、彼を人間不振に陥らせるのだ。

ジャックはすがるようにヴァンプを見た。

彼の言葉が欲しい。この世界にいても、安心出来る自分のテリトリーが欲しい。



「私には、ジャック様が必要です」



 心臓が痛いほど跳ねる。

まるで心の内を読んだかのような。

だがジャックの耳に、ヴァンプの声は酷く優しい。



「嘘、じゃ、ないのか、お前も、賢者逹に」
「いいえ」



 遮るヴァンプの声音に、肩を揺らす。あまりの強さに、涙すらでそうな。



「私は、貴方の味方です。私は、国に忠誠を誓ったのではなく、貴方に忠誠を誓ったのですよ」



 そう言って、ジャックにしか分からないほどの微粒子で、柔らかく笑んだ。

胸につかえていた醜いものが、するすると解けて行く。

知れず胸を撫で下ろしたジャックは、そうしてようやく自分を取り戻した。

夜風がジャックの髪を撫でていく。ふやけた思いが、全て風に流されていく気がした。



「ああ、そうだ…そうだった」



 すまない、と謝るジャックには、先ほどまでの女々しさは一つも無かった。

椅子から立ち上がり掛けてあった上着を羽織る。

前を向けば、もう何もジャックを遮るものはなかった。



「行こう、ヴァンプ。ついて来てくれるな」
「ええ、もちろん」



 太陽王が撃たれ地に伏す、これは数時間前の話である。



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「エデンを引きずり落とすバッドカンパニーの準備は」
「滞りなく」
「まったく、出すぎたまねをするからこうなる」
「太陽はいずれ沈む。それが世界の掟よ」
「違いない」
「私のジャックが王になるなら、何だっていいわ」
「君はそういうと思っていた。安心したまえ、ジャックはただ座っている。それだけでいいのだから」
「さて、南の楽園をどう落とすか、考えようじゃないか」
「我々は我々の掟を以って、我々の敵を排除すべきだ」
「異議などあるわけがない。それがゼロの遺志だ」
「では、鐘を鳴らそう。終末と、始まりの、我々の勝利を以ってして、時は来た」
「哀れな傀儡と、可哀想な太陽に」






そうして扉は開かれる。






08/09/22  K輔



memo
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書きながら食ってたビーフカレーのルーが
足りなくなりました。誰かください。