むかしむかしあるおうこくに、かわいそうなふたごがうまれました


ふたごはただふたごとしてうまれてきてしまっただけで、ただそれだけでうとまれました


ふたごにつみなどないのに


きんいろのあかごはおうきゅうへ、ちゃいろのあかごはひんみんがいへ


ふたごはひきさかれてしまいました


だけれども、ふたごのきずなをたちきることはだれにもできませんでした




キングダム
#04 [ 誕生と接続 ]




 南に位置するシャドーモセスにも一応冬は来る。

陽の出ているうちはまだ暖かいが、その姿が山脈の間に隠れると一気に気温が低下するのだ。

夜から朝方にかけての冷え込みは特に酷い。

外に水を張った桶を置いておけば翌日には綺麗に5センチの厚い氷が出来上がる。

スネークはそんな寒い日にも、習慣で目を覚ました。

いつもと同じ、朝日が昇る前。

まだ暗いうちに起きるのは、戦線に立っていたときの癖だった。

窓際に寝るのも、扉に背を向けないのも、癖である。

全ては次の行動を円滑に行い、戦うという行動につなげるためのものだ。

もう戦線には居ないのだから、こんなことをしても意味がないのに。

そして煙草に火をつける。

胸に溜まる嫌なものと一緒に、煙を吐き出した。

 賢王崩御の知らせを聞いたのが1週間前。

メリルとジョニーの通信では、今日がソリダスの一人息子であるジャックの戴冠式だった。

どういう人間かは今だつかめないところがある。

世間知らずで高慢だとは聞いたが、それは相手がメリルだからだろう。

彼女でも上手くやれるのだろうが、人によって対応が代わるのが人間だ。

正直なところ、スネークにとって一番の敵はジャックではなかった。

ジャックの人となりは分からないが、他の事は話を聞いていればいくつか予想できた。

まずジャックは、シャドーモセスとの戦争の本当の意味を理解していない。

つまり彼は敵ではない。利用された駒だ。

ならば、利用しているのは誰か。



「賢者達…か」



 これは憶測だ。そもそも賢者達という組織があるのは確認しているが、その実態は全て謎に包まれている。

メリルでさえも賢者達の情報を探るのは至難の技だと言っていた。

機器に強いジョニーがネットワークに侵入する手段も考えたが、ハッキングが露呈しそうになったのでそれ以上はやらせていない。

内にスパイが居ると知ったときの賢者達が、どんな行動をとるかが分からないからだ。

一応今だ休戦協定の破棄は宣言されていないが、それも時間の問題なのだ。

ジョニーとメリルなら上手くやるだろうと信じてはいるが、それでも嫌な予感は拭えない。

願わくば誰一人欠けることなく、とは、この時代に報われぬ祈りだろうか。

火をつけたまま考え事をしていたため、そのまま溜まった灰が重力に従い落ちた。

はっと気づいて膝の上を払う。瞬間、後ろから声がした。



「だめ!ズボンに灰がついちゃうでしょ、スネーク!」



 呆れるように、仕方がないと母が息子を叱るように、少女は声を張り上げた。

ゆっくりとゼンマイ仕掛けの人形ように振り返ったスネークは、今までとは別人のような情けない声を上げて少女を呼んだ。



「サニー、違う!今のはセーフだ!」
「アウトよ!私見てたもん」



 スネークは唸って新しい煙草を銜えた。

古い方の煙草は昨日リキッドと飲んだビールの空き缶の中に落とす。

そしてそれを見たサニーが今度はスネークの耳元で声を張り上げた。



「ああっ空き缶の中に入れないでって、いつも言ってるのに!」
「そういやそうだ悪かった!そんなに叫ぶとオタコンが起きちまうぞ」
「もう遅いよ…二人とも…」



 ぼさぼさの頭を掻きながら現れたオタコンは、欠伸を噛み殺して洗面所へ向かった。

サニーとスネークが交互に謝ると、ちゃんと起きれるいい目覚ましだねえと軽く笑った。

スネークは、昨日の残骸である空き缶を分類しながらビニールに詰めてゆく。

その隣でサニーは開きっぱなしだったあたりめの口を閉める。

ついでに一本口に含み、濡れた布巾で机を拭いた。



「スネーク、このあたりめ硬い」
「ああそりゃな、顎と歯をを鍛える用だ」
「犬みたい」



 他愛もない会話をしていれば、オタコンが洗面所から戻ってきた。

確かめるように顎を指でなぞっている。



「サニー、スネークはあたりめで鍛えたから犬ガムも噛み砕けるんだよ」
「スネーク、人間やめたのね」
「………」



 コーヒーの豆を挽いた粉が入ったビンを棚から取り出し、コーヒーメーカーの電源を入れて粉をセットする。

しばらくすると上部に入れた水が沸騰し、お湯が自動的に流れて狭いダイニングをコーヒーの香りが満たした。

サニーはそのうちに目玉焼きとサラダを、スネークは残り少ないバターを取り出し、トースターでパンを焼いた。

やがてどこにでもある朝食の風景が完成する。

三人分の食事を乗せるので精一杯な丸テーブルにはいつものメニュー。

席に着こうとしたところで、サニーが慌てて席を立った。



「あっ!待ってて、そういえば昨日ウルフさんにジャムもらったの」
「わぁ〜ほんとかい?今度はなんのジャムかな」
「今回はスタンダードにブルーベリーだって。はい、ハル兄さん」



 ありがとう、と受け取ってビンを開ける。ブルーベリーのジャムが、なみなみ詰まっている。

オタコンはナプキンをサニーの胸元にかけてから、いただきます、と挨拶した。

その後スネークとサニーが復唱し、朝食を食べ始める。

東方の国かぶれなオタコンは、食事の前に祈ることをせずにただ一言だけの挨拶をした。

スネークもサニーも意味は分からなかったが、なんとなくわかるのだろう。

オタコンが手を合わせ、それにサニーが見習ううちに自然とスネークもやるようになった。

今では当たり前のこと。

そしてこの食卓が彼らにとって一日の始まりだ。

やがて一度沈んだ太陽は、寒さに震える町にあまねく光を降り注いでいった。




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 暗闇にポツリと椅子がある。

あまりに豪華な椅子は、座る人間を選んでいるようだ。

そこに、カツカツと靴音を鳴らし進みくる青年が一人。

足元まで続く長い衣装は厳かに大理石を這っている。

少々裾を引きずりながら歩くしかないが背筋が綺麗に伸びているため、だらしなくは見えない。

むしろ彼をよく引き立て、その姿を闇の中で一際輝かせた。

銀糸の髪の間を縫って見え隠れするのは、耳に飾られた少し大きめのピアスである。

つい先ほど開けられたばかりのため、耳が熱を持ち赤くなっていた。

青年は長い脚を折り椅子に腰掛け、虚空にヴァンプ、と呼びかけた。

声にあわせ、あたりがぼやけた光に包まれてゆく。

いつの間にか右後ろに立っていたヴァンプは、呼び出し用のコンソールをたたいた。



「ジャック様、賢者達が参られます」
「ああ、少し待たせてしまったか」



ジャックの前方3メートル程先にある機械のモーターが、重い起動音を響かせて回り始めた。

ライトのスイッチが入り、機械の少し上の空間が歪む。

始めに現れたのは若い女性だった。

清潔感のある白いスーツに爽やかなライトブルーのシャツ。

柔らかな笑顔は母性本能に溢れ、長い黒髪は美しく肩を滑り落ちた。



『5分遅れよジャック。でもせっかくの戴冠式ですものね、おめかしは悪いことじゃないわ』



 空中に映し出された画面がぶれて、ローズがジャックの隣に腰を下ろした。

何もなかったそこには、いつの間にかローズと同じように椅子が現れている。

瞬きをしている間に幾人もの人間が、楕円を描くよう腰を下ろしていることにジャックは気づいた。

いつも同じように会議が始まるが、相変わらず何時画像が現れたのか分からない。

そして本人達がどこに居るのかも。

ジャックはそれが当たり前だと教わったし、実際彼らは頼りになったから、ジャックは多く考えることをやめた。



『さて、ジャック様』



 厳格な口調で口を開いた初老の男は、顎の前で指を組んで空に肘を預けた。

本人の元には机があるのだろう。

一見すると間抜けなポーズだが、ジャックはそれがわかったため無表情に言葉の先を待った。



『まずは祝福の言葉を。おめでとうございます、我らが王』
『王としてのご覚悟、我らがしかと見届けます』



 言葉を継いだのは腰の曲がった老婆だ。杖に両手を置き、孫を見るような目でジャックを見つめる。



「ああ、ありがとう。これからもよろしく頼む」



 微笑む表情は優しげであり、その口調も柔らかだ。

だがジャックは知っている。かつての戦争での彼らの判断を。

それは人が思いつく予測の範囲を超えた、まるで電脳の演算処理にも似た完璧な計画。

綿密に、周到に用意されたシナリオは、あの南の楽園の兵士たちを一瞬にして屍へと変えたという。

当時ジャックの年は片手で足りるほどだったから、よくは覚えていない。

ただ覚えているのは、ソリダスが苦い顔で書類に向かっていたことだけだ。

戦争を経験したことがないジャックにとって、その表情から窺い知れることは少ない。

だが、ジャックにもわかる事はソリダスにとって苦しい決断であったということだけだ。

ジャックは今にも逃げたくなる気持ちを無理やり抑え込んだ。

王になるとは、こういうことだ。自分の意見がどうにせよ、最終的には国のことを考えねばならない。

たとえそれが苦渋の決断だとしても、だ。



『貴方様の行く先に、繁栄と光あれ』



 厳かな声で呟いたのは、老人の中でも一際体格のいい初老の男。

ぶれる映像の向こうで彼が右手をかざすと、ジャックの前に電光のコンソールが現れた。

しきたり通りにジャックがそのコンソールに右手を乗せると、それらは輝きだしやがて収束した。

輝きの中に現れた文字は、「雷電」。



『新たなる王の誕生とともに、我らは名を与えます』
『名を、雷電。国に繁栄と、光を』



 光を、と輪唱された声を聞いてジャックは頷き、コンソールを指で弾いた。

コンソールが消え、暗闇に灯りが点ってゆく。

賢者達の姿はやがて光に解けるように消えていった。

しばらく無言で椅子に座っていたジャックは、疲れたように足を投げ出して背凭れに頭を預けた。



「ヴァンプ、水を」
「はい、ジャック様」



 万能の付き人は、すぐさまコップに水を注いで現れた。

もしくは用意してあったのか。あまりの素早さに感服するが、いつものことなのでさほど驚かない。

だらしない格好のまま水を飲み干し、ジャックはようやく立ち上がった。

足取りは重く、まるで見えない何かに足をがんじがらめにされているようだった。



「ジャック様、会見の準備が整ったとのことです」



 イヤホンから聞こえてきた声に二、三言呟いたヴァンプがジャックに告げる。

賢王崩御の知らせがネットワークで配信されたときも忙しかったな、とぼんやり思いながら、ジャックは会議室の扉を開けた。

サイドに立つ兵士が敬礼する。



「わかった、すぐに行く」



 答えたジャックの声は明瞭で、先ほどまでの気だるさは感じられなかった。



「俺の民たちを、安心させよう」



 会見場は野外で行われた。

街が一望できる空中庭園だ。大通りには人々が溢れ、誰もが浮かれきった表情を浮かべている。

何がそんなに楽しいのだろうか、笑顔が溢れることはいいことだと思うが。

ジャックは、そんなふうに皮肉に構えることしか出来なかった。

口では国のためを思い、賢王の遺志を継ぐなどと綺麗な言葉を並べ立てながらも、心はどこか別人のように自分を眺めていた。

そう思うのも、自分のせいであり、この国のせいでもあるだろう。

ちょうど一週間前まではみながソリダスのために喪に服し沈みきっていた街が、今ではジャックの戴冠式のためにお祭り騒ぎである。

複雑な面持ちのジャックは戴冠式に初めて街と自国の民を見下ろし、皆がソリダスのことを忘れていることに愕然となった。



「ジャック様、お疲れ様です。お食事はいかがなさいますか?」
「部屋でとる。運んでおいてくれ…」



 会見も終わり、激しい疲労を感じたジャックは、一人国王の執務室に戻ってソリダスの遺品の一つである葉巻に火を付けた。

その香りは在りし日のソリダスを思い出させ、ジャックは葉巻にむせながらそれを吸い続けた。

むせたためか、別の理由か、ジャックはいつの間にか泣いていた。

そしてこの国でたった独りソリダスを思った。

ソリダスが美味そうに吸っていた葉巻は、ジャックにはただ不味かった。






孤独に身を焼かれる。






08/12/05  K輔



memo
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大変お待たせしました。
これにて第一章の終了です。