為政者が支配者である必要は無い。 水上に浮かぶ六角形の都市、アーセナル。 通称セルシティと呼ばれるそこは、幾何学的で美しい外観に反して重く沈んでいた。 国王崩御、その知らせが国を襲ったのは数日前。 太陽と称されるほどの賢帝の死が残した亀裂は、決して無視できるものではなかった。 王が長く続いていた隣国との戦争を回避するために尽力していたのは民の誰もが知っている。 長く望んだ平穏に手が届くかもしれない、その矢先の出来事だったのだ。 その日。セルシティの中枢で、新たな王がその座についた。 「陛下」 己を呼ぶ声に気づいた青年の顔は不機嫌そのものだった。 「ヴァンプか」 何だ、と答える声も刺々しい。 ほこりの積もった書庫に埋もれるように座り込んでいた彼は、背後の臣下を振り返ろうともしない。 「どちらに行かれたのかと。皆が探しておりましたよ」 「俺が居なくてもいいだろう」 「貴方が居なければ進まないことも多いのです」 陛下、と繰り返す声にようやく振り返った青年の顔は、僅かに紅潮していた。 「その名で呼ぶな!」 ありありと見える憤り。 新たな王はまだまだ若い。ただ、傀儡だということに気づかないほど暗愚ではない。 しかし、それだけだ。 「ジャック様」 睨みつけてきた視線はもう明後日の方を向いている。 まるで拗ねた子供のようだ。その子供の機嫌をとるのが自分たちの役目。 「ジャック様」 貴方は必要なのだ、と。 「たとえ他人がどうであろうと、私の主は貴方です」 ここで倒れられては困るのだ。 それではあまりに。 面白くない。 |