寒空の下。

外出が滅多に減った今年のクリスマスは、外に見える他人の家のイルミネーションとテレビが全てだった。

お尋ね者として顔が割れてしまっている以上、下手に出歩くことは危険に繋がる。

だから顔を知られていないオタコンと雷電が買出しに出た。

スネークは自宅と銘打ったアジトで留守番である。



「なにそれ、都市伝説かホラーの類い?」



昔の話をしたのは単なる気まぐれだ。

聖夜に何もない不毛の地で見た赤い鯨の話。

証人などいなかった、だからこそ誰かに語り継いで欲しかった。



「…本当の話だ」
「サンタは赤い服に白いひげにHO-HO-HO-、でしょ?」
「それが一般論だが、俺は確かに鯨のサンタを見た」
「幻覚じゃないよね?」
「確かにあの頃は麻薬漬けだったが、嘘は言って無い。誓って見たぞ」



聖夜を何のために祝うのか、その起源は既に曖昧になっておりサンタクロースがなぜ存在するのかすら人はもう覚えてはおらず。

でも確かに昔からその存在は信じられ伝えられ、語り継がれてきたのだ。

今もなお。そしてこれからもずっと。



「ふうん、にわかには信じられないけど…」
「まぁ…だろうな」



自分だって信じられないような奇妙な話だ。

信憑性もなにもない。

項垂れるようにして、足元を確かめた。氷が張っていて、わりと危ない。

一応形だけでも祝うことになった聖夜のための食料品を抱え直す。

ばか騒ぎは出来ないが、たまには酒に酔うのも良いだろう。

3人分のスミノフがカチャカチャと鳴る。



「オタコン、俺は」



空を見上げた。

もしかしたらこの世界の何処かであの鯨が漂っていて、死者のように惰性に生きていた子供を何処かで救って。



「いま、生きているのは、それはあの鯨のおかげかもしれないと思うんだ」



そうして青年になったとき、もうその姿が見られなくなってしまっていても。

一度閉じた世界でこの思いを抱けるのは、明日生きるためなのだと。



「そう思ってしょうがないんだ」



夜が怖いと泣いていた。

壁を叩く枝が怖いと。

窓を揺らす風が怖いと。

それでも生きているのは、この聖夜が何もかもを閉じ込め、何もかもを追い出すからかもしれなかった。

やがて空が白む頃に、ようやく寝付けた子供の頬を優しく撫でる父のように。

全てのものへ感謝を捧げたくなるからかもしれなかった。



「ねぇ雷電、聖夜って不思議だね」



やがてオタコンが口を開いた。

ずれた眼鏡を押し上げ、スネークの為に買った煙草の入った紙袋を持ちかえる。



「例えば隣にいるのが全く知らない人だったとしても、墓場まで連れ添う仲間のように思えるから不思議だ」



やがて23の物語は終わりを告げ、その日に全ては集約される。

24個目のその日に、奇跡が訪れるのだ。

空から舞い降りた白い綿を見て、二人は寒さを振りきるように足を早めた。

この夜、共に過ごすことの出来る素晴らしい出会いに、感謝と祝福を捧げながら。






変わらぬ空の下、僕らは






08/12/26  K輔