”永劫の時を漂うことを嘆かないで”
”夜の闇を駆けることを躊躇わないで”
”死と生の隔たりはとても曖昧で、でもだからと言って人はそれを無視などできなく”
”だからこそ彼は無知でも諦め悪く、その腕の届く限りの人間を愛したの”
”だから、だからこそ、ほら”
”この地には、あまねく雪が降り注ぐでしょう?”

「サンタクロース…」
幾多の命と願いを吸い取り膨張し続け、これからも永劫空を漂い続ける。
聖者の起源などもはや誰も知らないおとぎ話に過ぎず、それが今も生きていることすら誰も信じない。
やがて融けて消える、人の命を拐う、願いを叶える。
人によっては死神で、誰かにとっては聖者であるならば、なら、父にとっては?
僕ならなんだ?
答えに困り振り向いても、そこには誰もいなかった。
亡者も、聖者も、父さえも。
僕は泣きながらアサルトライフルを構え、空に撃ち撒いた。
魂や命そのものすら奪うのなら、なぜ今僕を殺さないのか。
悔しくて叫んでも、サンタは帰ってこなかった。
赤い鯨は、確かに死神だったのかもしれない。

僕は父の命が吸われないよう、ただ祈った。
誰も一人ではないと、鯨を守る人は言う。
夜は誰しもに訪れるけれど、 囲う世界には果てなど無くどこまでも優しく目の前に広がっているものなのだと。
ならば、きっと引き合うだろう。
どこかに居る、貴方の。貴方だけの相手が。
それが愚者なのか、賢者なのか、それは誰にも、神ですらわからない。
それでも、人は歩むことをやめないのだ。
ときに弱く、ときに愚かで、それでも強く輝く瞬間のあの美しさよ!
人の子よ、と鯨を守る人は言った。
それはそれは気高くやさしい声で、世界はこの日に一度死ぬだろうと語った。
鯨が身に貯め、その世界は一度死んでしまうだろう。
再生と、誕生の意味をこめ一人の神の名を借りて、そしてこの夜は明日のために死んでゆくのだ。
明日また自分が生きている音を聞くために。
その夜の名を、「クリスマス」と呼んだ。
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