時折、自分がどこに立っているのか分からなくなる。




「ビッグボス…あなたが…」


感嘆の声に僅かに混じった嫌悪の色に気づかないふりをして、スネークは目の前の手を握った。
お会いできて光栄です、と口をついて出る社交辞令に自嘲する。
泥にまみれて戦場を這いずっていた自分は、いつの間にかノリのきいた制服を着込んで机に向かう時間が増えた。遠い世界の話だった会議やら腹芸やらもずいぶんと慣れた。
ビッグボス。伝説の傭兵。
そう語られる男は、ネイキッド・スネークと呼ばれた男ではない。
あの日、あの白い花弁の中で失ったものを取り戻せずにいる、ジャックと呼ばれた男ですらない。
ならば、ここでこうしている、ビッグボスと呼ばれる男は一体誰だと言うのだろう。


「何を考えていた」


デスクに戻ると、不機嫌そうに腕を組んだオセロットがいた。
制服ではスーツなくスーツを着込んだ彼には、いまだに違和感を感じる。


「最近上の空だな。あのガキも気にしていた」
「…フランクか」
「貴様のことだ。また下らない袋小路にでもはまったんだろう」
「どうだろうな」


ジョン、と。呼ぶ声音は複雑だ。眉間のしわを深くしたオセロットに笑う。


「なに、デスクワークで退屈しているだけだ」
「フン、ガラでもないな」
「だろう?」


茶化したつもりが、見返してくる眼は思いの外真剣だ。


「…面倒なことは俺がやろう。こっちは得意分野だ」
「オセロット?」
「だから今は、少し休め。そうだろう、ジョン」


そうだ。 こいつはいつも、その名で呼ぶ。
今では呼ばれることのない、名前。


「そうだな。少し、任せた。アダムスカ」


自信に満ちた不遜な笑みは、あの頃と少しも変わってはいなかった。




こんな日も、きっとあった事だろう。






08/06/22  あやふじ