夜の静けさを縫って聞こえてくる兵士達の雑談にロイは目を細めた。
二人だけで始まった部隊はいつの間にか大所帯になった。
それは仲間の地道な努力もあったのだろうし、何より、ビッグボスの存在があったからだろう。
カリスマ、と言えばいいのか。伝説じみた噂話など心底どうでも良かった。その称号とは裏腹に泥にまみれてトラックに帰ってくる彼は、ふんぞり返って何も分かっちゃいないお偉いさんとは立つ位置が違う。
ただそれだけのことが、どんなに大きいか。


「ロイ」


コン、と運転席の窓を叩かれた。


「どうした?ジョニー」
「ボスを知らないか?」


姿が見えないんだ。ミッション中ではないだろう、と。そう尋ねる声はどこか不安げだ。
何でもないように装っているが、数日前まで囚われていた彼はいまだに体調が万全ではない。


「ったく、あの人は…。休んでろって言ったのに」


だからミッションのメンバーにも入れなかった。無茶をされて柱を失ったらそれこそ洒落にならない。


「探してみる」
「俺も。ロイ、向こうを頼む。…足は、大丈夫か?」
「なあに、メディックも増えて順調だよ」






 外は星空だった。いつ銃声が鳴り響いてもおかしくない状況なのに、不気味なほど穏やかだ。
キャンプからそう遠くない場所に、その人はいた。
倒木に背中を預け、ぼんやりと宙を見ている。
そこに何も映っていないことに気づいて、ロイは思わず足を止めた。
呼ぼうとした声が喉の奥で引っかかる。
がらんどうの、眼。
無表情とかそんなものではない。あの少年兵のように作られた無機質さでもない。
死人の、眼だ。
その連想に首を振った。踏み出した足に折られた小枝が、小さな音を立てる。


「どうした?ロイ」


その音で振り返った彼が、笑った。
いつもの笑顔に見えた。軽口を叩くときの表情と変わらないように見えた。それでも、何かが、おかしい。


「ジョニーが心配していた。アンタ、絶対安静なの分かってるか」
「…じっとしてるのは性に合わない」


中身のない会話。ひどく白々しく聞こえるそれに、ロイは苛立っていた。
ああ、この苛立ちは、焦燥だ。
彼が囚われたときに感じた恐怖と同質の、下手をすれば、それ以上の。


「小言が降ってくる前に戻るつもりだったんだがな」


立ち上がって言い訳がましくこちらに近づいてくる彼は、もう普段の表情に戻っている。
あのガラス玉のような眼が嘘のようだ。
だが、見てしまった。見なかったことにするには、衝撃が強すぎた。


「まったく、傷が開いたらどうしてくれる。今晩は見張ってるからな」


嘆息する彼の腕を掴む。
触れた瞬間、僅かに彼が強張った表情を浮かべたことには、気づかない振りをした。





英雄は、いつも孤独だ。






08/06/30  あやふじ