波の音がする。
青い青い海に差し込む一条の光。ゆらゆらと揺れる水の中。
付けたまま放置していたテレビが流し始めた映像は、流行りのヒーリングというやつだろうか。


「あれ、珍しい」


 ソファの後ろから乗り出すようにテレビをのぞき込んだ相棒に、いささか驚く。
てっきりPCに夢中になっているか、沈没していると思っていた。


「起きてたのか」
「さっき起きたの」


 差し出されたコーヒーは作り置きのもので、味も香りも物足りない。


「と言うか、ドア開けた時点で気づかれると思ったんだけどな。随分と見入ってたね」


 明日は雨かな、なんて、軽口を叩きながらオタコンは隣に腰掛ける。
テレビは相変わらず水の音をさせていて、映る像はさらに青く深くなっていく。


「あー、僕ね、コレに癒されるって人がよく分かんないんだ」
「そうか。…そうかもな」


 濁流の音も川のせせらぎも何とも思わない。ただ、水中の音がもたらすのは奇妙な不快感だ。
沈んでいく。やがて飲まれて消えていく。そんな不快感。母なる海は、人が思うほど優しくはない。
画面が切り替わる。
僅かに霧に霞んだ森。白と、緑。鳥の鳴き声。


「自然に癒されるって、不自然なことかもしれないね。スネークはこういうの好きなのかい?」
「まさか」


 むしろ苦手だ。たまに鉛を飲み込んだような不快感を感じることがある。


「君も僕も面倒くさいね」


 半ば笑った声に否定はしない。


「今更だろう」
「うん」


彼も自分もそう変わらない。お互い、面倒な性格で、性質だ。
 

「でもね、だからこそ、僕はスネークの相棒でいたい」
「なに言ってる。お前が相棒でなかった時など出会った直後ぐらいだ」
「そうか。ありがとう、スネーク」





 落ちる。
沈む。沈む。
飲まれて。
そうして君が、手を伸ばす。





その指に、触れたとき






08/08/11  あやふじ

−水のヒーリングミュージックが嫌いなのは私です。