「地獄というものはあるのだろうか」 そんなことを口走った男を、雷電は呆然と見つめていた。 その表情を横目で見た男は、クツリと口の端を歪める。 「アンタが天国やら地獄やら言い出すとは思わなかった」 「そうか。…この世はまさに地獄ではないか」 皮肉げな声とは裏腹に、男はどこか悲しそうに見えた。 否、その男がそんなふうに見える時点で、自分はどうかしている。 宿敵である。 殺すべきだと思っている。 何故、普通に会話などしているのか。 ヴァンプ。 本名ではないはずだ。 そう言えば、あの事件のブリーフィングの時も、男の名は知れなかった。 その残虐性からついた名なのだろうと、ぼんやりとそんなことを思っていた。 だが、これは何だ。 「地獄か…あるんなら俺が送ってやる」 「ほう、そうか。…そうこなくては」 薄ら笑いで人を切り刻む男が、泣きそうな子供のような顔をしていた。 昔、死を望まれた子供がいた。 昔、生を望んでナイフを取った子供がいた。 昔、悪魔と呼ばれた子供がいた。 そして、強さを手に入れ、不死を手にした男がいた。 そう、それは渇望に似ていた。 かつて愛した男も、かつて愛した女も、もう全てがここには無い。 それは、渇望に似ていた。狂おしいほどに。 「お前なら、俺を殺してくれるかもな」 |