「地獄というものはあるのだろうか」



そんなことを口走った男を、雷電は呆然と見つめていた。

その表情を横目で見た男は、クツリと口の端を歪める。



「アンタが天国やら地獄やら言い出すとは思わなかった」
「そうか。…この世はまさに地獄ではないか」



皮肉げな声とは裏腹に、男はどこか悲しそうに見えた。

否、その男がそんなふうに見える時点で、自分はどうかしている。

宿敵である。

殺すべきだと思っている。

何故、普通に会話などしているのか。



ヴァンプ。



本名ではないはずだ。

そう言えば、あの事件のブリーフィングの時も、男の名は知れなかった。

その残虐性からついた名なのだろうと、ぼんやりとそんなことを思っていた。

だが、これは何だ。



「地獄か…あるんなら俺が送ってやる」
「ほう、そうか。…そうこなくては」



薄ら笑いで人を切り刻む男が、泣きそうな子供のような顔をしていた。




昔、死を望まれた子供がいた。


昔、生を望んでナイフを取った子供がいた。


昔、悪魔と呼ばれた子供がいた。


そして、強さを手に入れ、不死を手にした男がいた。


そう、それは渇望に似ていた。

かつて愛した男も、かつて愛した女も、もう全てがここには無い。

それは、渇望に似ていた。狂おしいほどに。




「お前なら、俺を殺してくれるかもな」







幸せな死を与えてやろう。






09/02/11  あやふじ

ヴァン雷のような、雷ヴァンのような。